こども性暴力防止法(日本版DBS)の施行(令和8年12月25日)まで、あと2か月ほどになりました。

この法律は、性暴力等の「おそれ」がある人を、こどもと接する業務から外すよう事業者に求めています。ただ、どうやって外すか(内定取消し・解雇・配置転換など)は、これまでどおり労働法と判例のルールで判断されます。

「法律で決まっているから」と準備なしに動くと、あとで争いになるおそれがあります。この記事では、社労士の立場から、採用予定の人と今いる職員に分けて、施行前に整えておきたいことをまとめます。

結論:採用予定者は「3点セット」、今いる職員は「配置転換の準備」

  • これから採用する人:募集要項・誓約書・内定通知書(就業規則)の3点セットをそろえておけば、対応しやすくなります
  • 今いる職員:採用時に前科を確認していないため「経歴詐称」は使えません。配置転換が中心になるので、雇用契約書と就業規則の見直しが大切です

法律が求めているのは「対象業務から外すこと」

事業者が対応を求められる「おそれ」には、次の4つの場面があります。

場面求められる対応
特定性犯罪の前科が確認された原則、対象業務に従事させない(新規採用は内定取消し等、現職者は配置転換等)
被害の申出があった被害が疑われるこどもとの接触を避ける(一時的に業務から外す・自宅待機など)
調査の結果、性暴力等があったと合理的に判断される原則、対象業務に従事させない(懲戒事由にあたれば就業規則に沿って対応)
性暴力等には至らない不適切な行為があった重大なら上と同じ対応。初回・軽微なら指導・研修と経過観察など段階的に

どの場面も、内定取消し・配置転換・自宅待機・懲戒といった雇用管理上の対応につながります。就業規則に根拠がないまま行うと、法的に争われるおそれがあります。

これから採用する人:準備していれば対応できる

内定取消し・試用期間中の解約には「合理的な理由」が必要

内定の段階で労働契約は成立していると考えられています。取消しができるのは、内定当時に知ることができなかった事実で、客観的に合理的で社会通念上相当といえる場合に限られます(大日本印刷事件・最高裁昭和54年7月20日判決)。試用期間中の解約も、通常の解雇より広く認められるものの、合理的な理由と相当性が必要です(三菱樹脂事件・最高裁昭和48年12月12日判決)。

なお、有期契約の場合は、試用期間中でも労働契約法17条1項の「やむを得ない事由」が必要とされた裁判例があり(リーディング証券事件・東京地裁平成25年1月31日判決)、無期契約よりハードルが高くなります。

前科を「明示的に」確認しておくことがカギ

採用選考で経歴を偽ったことを理由に、試用期間中の解約を有効とした裁判例があります(アクサ生命保険ほか事件・東京地裁平成21年8月31日判決)。採用選考で前科の有無をはっきり確認していれば、同じ考え方が使えます。

一方、刑が消滅した前科は、原則として自分から伝える義務はないとされています(マルヤタクシー事件・仙台地裁昭和60年9月19日判決)。この法律の確認期間は最長20年とより長いため、誓約書では「この法律の特定性犯罪事実該当者ではないか」をはっきり書いて尋ねることが大切です。

施行前にそろえたい3点セット

  1. 募集要項・求人票:特定性犯罪の前科がないことを採用条件として明示する
  2. 誓約書:採用選考の際に、前科の有無を書面で確認する
  3. 内定通知書・就業規則:「重要な経歴の詐称」などを内定取消事由・試用期間中の解約事由・懲戒事由として定め、周知する

こども家庭庁から、それぞれの参考例(ひな型)が公表されています。令和8年9月に更新されているので、最新版を使ってください。

今いる職員:「経歴詐称」は使えない

今いる職員に、今から誓約書を書いてもらっても、「経歴を偽って採用された」ことにはなりません(こども家庭庁Q&A)。そのため、前科がわかった場合や「おそれ」がある場合は、こどもと接しない業務への配置転換が対応の中心になります。

ただし、配置転換にも限界があります。

  • 配転命令の権利濫用:業務上の必要性がない、不当な動機・目的がある、通常がまんすべき程度を大きく超える不利益がある、のいずれかにあたれば権利の濫用とされます(東亜ペイント事件・最高裁昭和61年7月14日判決)
  • 職種を限定した採用:職種を限定する合意があれば、本人の同意なく別の職種へ配置転換はできません(滋賀県社会福祉協議会事件・最高裁令和6年4月26日判決)。「保育士として採用」「児童指導員として採用」などの人は、同意が必要になることがあります
  • 懲戒の前提:懲戒するには、就業規則に懲戒の種類と事由を定めて周知しておくことが必要です(フジ興産事件・最高裁平成15年10月10日判決)。「不適切な行為」も規程に書いておきましょう
  • 自宅待機:事実確認までの一時的な措置です。これだけで懲戒や確定的な配置転換はできず、無給とするのも難しいため、賃金の扱いを規程で整理しておきます

施行前に見直したい書類チェックリスト

  • 雇用契約書・労働条件通知書の「職種」「業務内容」の書き方
  • 就業規則:対象となる業務・職種の範囲
  • 就業規則:児童対象性暴力等・不適切な行為の禁止と懲戒事由
  • 就業規則:犯罪事実確認の手続(アカウント登録・戸籍情報の提出など)に応じる義務
  • 就業規則:試用期間中の解約事由、配置転換・自宅待機の規定
  • 募集要項・誓約書・内定通知書
  • 実習生・ボランティア・業務委託の受入れ規程や契約書

障害福祉サービスの事業所も関係します

児童発達支援・放課後等デイサービスなどの障害児通所支援は、施行日から当然に義務の対象です。また、こどもを支援する居宅介護・同行援護・行動援護・短期入所・重度障害者等包括支援などは、国の認定を受けると対象になります。

訪問や一対一の場面が多い事業所ほど、「不適切な行為」のルールづくりと、職員への周知が大切になります。

まとめ

こども性暴力防止法は「こどもと接する業務から外す」ことを求めていますが、外し方は労働法のルールのままです。これから採用する人は3点セットで準備ができます。今いる職員は配置転換が中心になるため、雇用契約書の職種の書き方や就業規則を、施行前の今のうちに点検しておくことをおすすめします。

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あらた社会保険労務士オフィスは、鹿児島市を拠点に、医療・介護・福祉・保育の事業者様を専門に労務管理を支援しています。こども性暴力防止法への対応では、次のようなご相談を承っています。

  • 対象となる業務・職種の範囲の整理
  • 就業規則の改定(不適切な行為の規程化、懲戒事由・内定取消事由・配置転換の規定の整備)
  • 雇用契約書・募集要項・誓約書・内定通知書の見直し
  • 従事者向け研修の企画・実施

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本記事は、こども家庭庁「こども性暴力防止法施行ガイドライン」、同Q&A、「防止措置と労働法制等を踏まえた留意点」(令和8年9月29日更新)、各種ひな型・参考例および各判例・裁判例をもとに、令和8年10月時点の情報を整理したものです。個別の事案については、必ず原文と最新の情報をご確認ください。